法定後見開始の手続について
判断能力が低下した場合、4親等内の親族、検察官や市区町村長等の申立権者が本人の住所地の家庭裁判所に対して、後見、保佐または補助開始を申し立てる。法律上は、本人の申立ても可能である。
本人の財産が親族等の第三者により勝手に処分されるおそれがある等、必要がある場合には裁判所の審判が出るまでの間に裁判所の命令により、財産の管理人をおくなどの「審判前の保全処分」が行われる場合がある。
報告家庭裁判所の命令により2ヶ月に一度程、財産目録の報告を義務付けされる。
解任:後見人任務の終了。被後見人の死亡。後見開始審判の取り消し。後見人の辞任。後見人の解任。よって終了。
申立ての際に申立書、財産目録、判断能力に関する医師の診断書等の書類の提出が求められる。弁護士による代理申立ても認められる。ただし申立書などの書式は定型化されており、申立人が手続きについて分からないような場合でも家庭裁判所の職員(裁判所書記官等)の助言を得ながら書類を作成することは可能である。申立ての費用としては申立て自体に1,600円分程度の収入印紙の貼付(申立て類型の組合せ等によって異なる)と裁判所により若干異なるが、郵便切手を4,000円分程度、登記費用4,000円程度の予納が必要となる。
申立てが受理された後、家庭裁判所が本人や後見人等候補者(いる場合)の面接などによる調査を行う。必要に応じて家庭裁判所の職員(家庭裁判所調査官等)は、裁判所外での面接を行う場合もある。調査が簡略化される場合もあるが本人の知らないところで勝手に申し立てられるなどの濫用を防ぐため、必ず本人の陳述を聞かなければならないと規定されている。実際には、調査官等の面談によって本人の意向が確認されている。東京家裁では申立時に本人及び後見人等候補者を同行させれば申立と同時に面接が行われる扱いになっており(即日面接)、日程の短縮が図られている。
いわゆる植物状態にある場合や幼少時からの重い知的障害者など、明らかに鑑定が必要でない場合(家裁によって若干基準が異なる)、又は補助の場合を除いて調査が終了後、必ず本人の判断能力について医師の鑑定が行われる。
鑑定の結果を踏まえて家庭裁判所の裁判官(家事審判官)の判断で開始の決定、又は申立ての却下決定が行われる。裁判官の判断によって、たとえば後見開始の申立てであっても本人の状況に応じて保佐、補助等、申し立てた内容よりも能力制限の少ない類型で開始決定されることもある。開始決定がされた場合、必ず本人にも通知される。
開始決定は、裁判所からの嘱託によって特別な登記がされる。登記事項は登記事項証明書に記載される。この証明書は本人、後見人等、相続人、公務員以外は交付請求できないとされ、プライバシーに配慮されている。
後見が開始されると法定後見の種類、後見人の氏名、住所、被後見人の氏名、本籍、が東京法務局に登記される。登記された内容を証明するのが登記事項証明書でこれが後見人の証明になる。
任意後見について
任意後見は、将来の後見人の候補者を本人があらかじめ選任しておくものである。法定後見が裁判書の審判によるものであるのに対し、任意後見は契約である。後見人候補者(受任者)と本人が契約当事者である。この契約は、公正証書によって行われる。
任意後見制度は必ず公証人役場で公正証書を作成する必要があります。公正証書を作成する費用は以下のとおりです。
(1)公正証書作成の基本手数料⇒1万1,000円
(2)登記嘱託手数料⇒1,400円
(3)登記所に納付する印紙代⇒4,000円
将来後見人となることを引き受けた者を「任意後見受任者」という。任意後見が発効すると、受任者は「任意後見人」となる。任意後見人の行為は、定期的に裁判所の選任する任意後見監督人により監督を受ける。任意後見監督人は裁判所に報告することで、国家は間接的に監督するものである。
任意後見制度は本人が契約の締結に必要な判断能力を有している間に、将来自己の判断能力が不十分になったときの後見事務の内容と後見する人(任意後見人といいます)を、自ら事前の契約によって決めておく制度です(公正証書を作成します)。なお、任意後見制度での家庭裁判所の関与は、本人があらかじめ選任しておいた任意後見人を家庭裁判所が選任した任意後見監督人を通じて監督するにとどまります。
もう少し分かりやすく言いますと、今は元気でなんでも自分で決められるけど、将来は認知症になってしまうかも・・・という不安を感じている方が、将来を見越して事前に公証人役場で任意後見契約を結んでおき、認知症かなぁと思った時に家庭裁判所に申し立てをして任意後見監督人の選任をしてもらうといったものです(任意後見監督人は本人が選んだ任意後見人がきちんと仕事をしているかチェックします)。
なお、任意後見契約においては任意後見人を誰にするか、どこまでの後見事務を委任するかは話し合いで自由に決めることができます。ただし、一身専属的な権利(たとえば、結婚、離婚、養子縁組など)については任意後見契約に盛り込むことはできません。
後見開始の審判
精神上の障害により判断能力を欠く常況にある者を対象とする(7条)。
後見開始の審判の請求権者は本人、配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人または検察官である(7条)。なお市町村長も65歳以上の者、知的障害者、精神障害者につきその福祉を図るため特に必要があると認めるときは後見開始の審判を請求することができることとされている(老人福祉法32条、知的障害者福祉法28条、精神保健及び精神障害者福祉法51条の11の2)。
家庭裁判所の後見開始の審判により後見人を付すとの審判を受けた者を成年被後見人、本人に代わって法律行為を行う者として選任された者を成年後見人とよぶ(8条)。
家庭裁判所は後見開始の審判をするときは職権で成年後見人を選任する(843条1項)。未成年後見人は1人でなければならないのに対し(842条)、成年後見人については複数の者が選任されることがある(843条3項・859条の2)。また、法人が成年後見人となることもある(843条4項)。後見開始の審判については請求権者の請求に基づいてなされるが、成年後見人の選任は家庭裁判所の職権による。なお、禁治産者制度の下では夫婦の一方が禁治産宣告を受けた場合にはその配偶者が後見人となるという法定後見人制度(改正前の旧840条)があったが成年後見制度の下で廃止されている。
保佐開始の審判
精神上の障害により判断能力が著しく不十分な者を対象とする(11条本文)。後見開始の審判の請求権者は本人、配偶者、四親等内の親族、後見人(未成年後見人及び成年後見人をいう。10条参照)、後見監督人(未成年後見監督人及び成年後見監督人をいう。10条参照)、補助人、補助監督人または検察官である(11条本文)。なお市町村長も65歳以上の者、知的障害者、精神障害者につきその福祉を図るため特に必要があると認めるときは保佐開始の審判を請求することができることとされている(老人福祉法32条、知的障害者福祉法28条、精神保健及び精神障害者福祉法51条の11の2)。ただし、精神上の障害により判断能力を欠く常況にある者については7条により後見開始の審判を請求すべきであるから保佐開始の審判を請求することはできない(11条但書)。
家庭裁判所の保佐開始の審判により保佐人を付すとの審判を受けたものを被保佐人、保佐の事務を行う者として選任された者を保佐人とよぶ(12条)。
補助開始の審判
精神上の障害により判断能力が不十分な者のうち、後見や保佐の程度に至らない軽度の状態にある者を対象とする(15条1項本文)。補助開始の審判の請求権者は本人、配偶者、四親等内の親族、後見人(未成年後見人及び成年後見人をいう。10条参照)、後見監督人(未成年後見監督人及び成年後見監督人をいう。10条参照)、保佐人、保佐監督人または検察官である(15条1項本文)。なお市町村長も65歳以上の者、知的障害者、精神障害者につきその福祉を図るため特に必要があると認めるときは補助開始の審判を請求することができることとされている(老人福祉法32条、知的障害者福祉法28条、精神保健及び精神障害者福祉法51条の11の2)。ただし、精神上の障害により判断能力を欠く常況にある者及び精神上の障害により判断能力が著しく不十分な者については7条の後見開始の審判もしくは11条の保佐開始の審判を請求すべきであるから補助開始の審判を請求することはできない(15条1項但書)。家庭裁判所の補助開始の審判により補助人を付すとの審判を受けたものを被補助人、本人の行う法律行為を補助する者として選任された者を補助人とよぶ(16条)。補助は事理弁識能力の低下が後見や保佐の程度に至らない軽度の状態にある者を対象としており、自己決定の尊重の観点から本人の申立て又は同意を審判の要件とする(15条2項)。
補助開始の審判には必ず併せて17条第1項の同意権付与の審判あるいは876条の9の代理権付与の審判の一方又は双方の審判がなされる(15条3項)。補助人の権能は補助開始の審判を基礎としてなされる同意権付与の審判や代理権付与の審判の組み合わせによって内容が定まる。したがって、被補助人に同意権付与の審判と代理権付与の審判の双方がなされている場合にはその補助人には同意権・取消権・代理権が認められ同意権付与の審判のみの場合には同意権・取消権のみが、代理権付与の審判のみの場合には代理権のみが認められることになる。ただし、いずれの場合も身分行為など本人だけで決めるべき(一身専属的)事項については同意権・取消権・代理権を行使できない。
補助人が補助の事務を行うにあたっては、被補助人の意思を尊重し、かつ、その心身状態及び生活状況に配慮しなければならない義務を負う(876条の10第1項・876条の5第1項)。
補助人またはその代理人と被補助人との利益相反行為について、補助人は臨時補助人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない(876条の7第3項本文)。ただし、補助監督人(後述)が選任されている場合には補助監督人による(876条の7第3項但書)。
家庭裁判所は必要があると認めるときは被補助人、その親族もしくは補助人の請求または職権により補助監督人を選任することができる(876条の8第1項)。補助監督人の職務権限については後見監督人の規定が準用される(876条の8第2項)。
同意権付与の審判
同意権付与の審判の請求権者は補助開始の審判の請求権者または補助人もしくは補助監督人である(17条1項)。市町村長も65歳以上の者、知的障害者、精神障害者につきその福祉を図るため特に必要があると認めるときは同意権付与の審判を請求することができることとされている(老人福祉法32条、知的障害者福祉法28条、精神保健及び精神障害者福祉法51条の11の2)。本人以外の者の請求による場合に本人の同意がなければならないのは補助開始の審判と同様である(17条2項)。被補助人に同意権付与の審判がなされている場合には、被補助人は13条1項に列挙されている行為の一部の法律行為について補助人の同意を要する(17条1項)。補助人の同意を得なければならない行為について、補助人が被補助人の利益を害するおそれがないにもかかわらず同意をしないときは家庭裁判所は被補助人の請求により補助人の同意に代わる許可を与えることができる(17条3項)。被補助人が補助人の同意を要するとされた法律行為を補助人の同意またはこれに代わる家庭裁判所の許可を得ずに行った場合は、当該法律行為を取り消すことができる(17条4項)。
代理権付与の審判
代理権付与の審判の請求権者は補助開始の審判の請求権者または補助人もしくは補助監督人である(876条の9第1項)。市町村長も65歳以上の者、知的障害者、精神障害者につきその福祉を図るため特に必要があると認めるときは代理権付与の審判を請求することができることとされている(老人福祉法32条、知的障害者福祉法28条、精神保健及び精神障害者福祉法51条の11の2)。被補助人に代理権付与の審判がなされている場合には、特定の法律行為について補助人に代理権が付与される(876条の9第1項)。ただし、被補助人本人以外の請求によるときは本人の同意を要する(876条の9第2項)。
- 申立書(定型の書式が家庭裁判所に行けば無料でもらえます)
- 申立人の戸籍謄本1通(本人以外が申し立てるとき)
- 本人の戸籍謄本、戸籍の附票、登記事項証明書、診断書各1通
- 成年後見人候補者の戸籍謄本、住民票、身分証明書、登記事項証明書各1通
(候補者がいる場合)
※登記事項証明書は、東京法務局が発行する後見開始の審判等を受けていないか、 あるいは既に受けているかについての証明書のことです
※身分証明書は、本籍地の役所が発行する破産宣告を受けていない旨の証明書のこ とです
- 申立書付票
- 本人に関する報告書(用意できれば)